ホスト体験記2

カズ(24歳)は夜の男に変貌していた。


俺に街中で声をかけてきたときは、よれよれのランニングシャツにデニムでどこにでもいそうなあんちゃんだったのに(だから俺は行く気になったのかもしれない)、黒いスーツをビシッと決め、ワックスで金髪を整え、声もテンションも1時間前とは全然違い張りがあった。仕事モード全開だ。


カズに誘導され、クラブから程近い雑居ビルにある(潰れたスナックをクラブが買い取ったという)新人用控え室。ドアを開ければ、男が30人近くが待機していた。もうそれらしい雰囲気が出てる者もいれば、まだ成りきれてない大人しそうな者もいる。とにかく皆若い。

貸出し用の黒のスーツがあてがわれ、その場で着替える。(ベルトだけフェンディ)


コの字型のソファに全員スーツ姿で座っていた。席は体験入店(初日)と体入以降の研修生に二分され、体入側に座った。今日の体入者は8人だ。


研修生は何日か経っていることもあって賑やかだ。カウンター席に控えていた先輩ホストが体入に「これ参考にして源氏名考えてね~」とホスト求人誌の束をテーブルにドサッと置いた。


「この中で借金ある人、家出してきた人、手挙げてー」


あっけらかんと大きな声で言ったが、誰も手を挙げない。


途中、また先輩がやってきた。他の先輩も一目置いていたので大御所らしい。白いデニムにパンクなベルト、上着は薄手の夏らしい柄のポロシャツにロン毛(黒髪)だ。

マルボロ片手に「ここは笑うところだぞ~」「ハイ、誰かこの曲だぞ。踊って踊ってー」などハイテンションな機関銃トーク炸裂。携帯も頻繁に鳴る。



「まっ、この世界はさ、半年で500万位貯めてソッコー消えるのがいいからな、頑張ってやってくれぃっ!」


そう言い残し台風は去って行った。



程なくして研修生が出勤になり、我々体入だけ8人が残され緩い空気に。ぽつぽつと皆隣の人と話し出す。

今度は、坊主頭の大人しそうな人が入ってきた。クラブの裏方、マネージャーで元ホストのリクさんだ。どうみても普通のサラリーマンにしか見えない上に童顔で安心感を覚える。


リクさんがホワイトボードに会社概要と給与体系について板書し始めた。


ここのホストクラブはWグループと言って、新宿界隈に5店舗、名古屋に2店舗あり、これから新規出店で業務拡大中とのこと。


給与形態は以下の通り-----
(板書をすぐ消されてしまい私の記憶ですかないので誤りの可能性有り)


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(最低保証賃金)

売上    日給    +歩合

00-20万  6500円    10%(売上に対して)
20-40   7000円    15%
40-60   7500円    20%
60-80   8000円    25%
80-100  8500円    30%

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(100万以上になると完全歩合制)

100-200万(売上の)35%
200-300      40%
300-400      45%
400-500      50%
500-600      55%
600万以上     60% 

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売上というのは、自分を指名してくれるお客さんが払ったお金のこと。だから自分の顧客が出来たとしても、売上げが20万未満なら日給6500円ということになる。最低保証賃金を時給換算にすると町のコンビニバイトか、それ以下ということになる。逆に、顧客から1000万の売上があれば、報酬は600万ということだ。

この売上げは月売上げではなく、半月単位。拠って売上げランキングは二週間ごと入れ替わる。給与は月二回現金で直接手渡し。基本的に前借はなしだが、言えば前借もOKとのこと。


想像以上の実力主義だ。最低賃金で生活するとなると寮があるとは言え、食費、携帯代で払えばなくなってしまうだろう...

一通りの会社概要と給与説明が終わり、次は、簡単なテーブルマナー。

使うグラス(ビールタンブラーと呼ばれるもの)、座る席(丸い椅子)、座る前の挨拶(軽く自己紹介をする)、お酒の頂き方(お客様のグラスより低めの高さから乾杯する)等等。


リクさんは少しばかし間をおき、神妙な顔つきで言った。



「絶対してはならないこと3点をこれから言います」





--つづく----