アメリカ労働体験記1
機内の窓からの何処までも続く鉛色の雲海。
地平線の彼方まで延々と続いている。
雲の上にいる自分。
後方には西日が輝いていた。西方の黄色の優しい光は、大日如来。
-----俺の左手首には以前チベットのラサ・ジョカン寺前で買った数珠が巻かれている。
飛行機が少しづつ高度を下げ雲の中に突入し、少し大きめの揺れを感じる。 ガタガタと機内の揺れが気になり出したとき、視界が開けた。
殆どが漆黒の闇に染められた空。しかし、まだ塗られ忘れた紅の空の一片が残っていた。
眼下は、キラキラと輝くオレンジ色の街。
大きな川の対岸には、東京の街に似た、レインボーブリッジのような橋があって、代々木のドコモビルのようなタワーが見えた。川の下流には工場の煙突群があって川崎か横浜のように見えた。高速道路が縦横無尽に郊外まで延び、多くの車が急かされたように走っている。
飛行機が旋回して高度を下げるたびに、オレンジ色の光の塊が、デジタル画像のドットのようにひとつひとつリアルに見て取れた。
このオレンジ色の光のなかの一つ、二つ、いやそれ以上の中に俺はこれから飛び込んで行くのかと思うと胸が高鳴る。
アメリカ合州国・フィラデルフィア。
生まれて初めて立つ大陸でこれから始まる数ヶ月間。
俺は、何を見て、何を感じるのだろう。果たして、成田の搭乗前に流した涙を何に変換できるのだろう。
現地時間10月24日19時。
大きなバウンドと共に
フィラデルフィア国際空港に無事着陸した。