ホスト体験記3

 

 

「セクハラ、煙草、爆弾 です。」



セクハラは時折、アルコールに乗じてお客さんを触って不快にさせてしまったというクレームが入るのだそうだ。

煙草。体入の8人全員が喫煙者であったがこれもご法度だ。喩えお客さんが「一緒に吸いましょうよ」と言ってきてもだ。 唯一ホストの中で吸えるのは役職か源氏名に苗字がついてる幹部クラスのホストだけなのだ。


爆弾とは... 


予め指名ホストがいるお客さんを横取りして自分の客にしてしまうこと。 これは3つの中でも特にご法度中のご法度なのだ。 例えば、指名ホストが席を外してる間にお客さんに気に入られて携帯のメルアド交換など誘われてもお断りすること。

仮に月1000万のお客さんだったら取り返しの付かないことになりますんで、と念を押される。



ここで少しばかし「運命共同体」となった体験入店者8名概略を書いておこう。


【青森くん】
現住所青森市(21)24万円で沖縄以外の46都道府県を全国行脚。宿泊先は全部漫画喫茶(!)旅のフィナーレは新宿と決めていたらしいが、改札を出た途端キャッチされ、夜行バスをキャンセル。濃い顔で目が大きくギラついてるのか、輝いてるのか... 


湘南台2人組】
小田急江ノ島線湘南台在住フリーター(20)。陸上自衛隊を辞めたばかり。色白で小柄で目がクリッとしている。
ニート(19)「ニートです」と自称するところに時代を感じる。ナヨナヨしてまだ高校生にしか見えない。今日は小田急線に乗って取り合えず新宿アルタ前でぶらついていた。



【大学生2人組】
1人(19)はそれらしい雰囲気がもう出ている。長身で今日の8人の中では一番イケメンかもしれない。大きな輪っかのピアスが光っていた。もう1人(19)は何故か制服で着ていた。さすがのホストも「高校生?」といぶかしむ。坊主頭に日焼けというところをみると野球部だと思われる。


【溶接工2人組】
静岡で溶接屋をしてる青いカラコンの彼(22)。いかにもだ。ホストにすぐになれそうだ。今日は実家のある千葉に帰省して友人と新宿で遊んでいたという。その友人が同行してる彼。(21)であった。


【俺】
杉並区在住カメラマン志望・肉体労働者(29)1人だけ年齢が突出して高い。何度か声をかけられ今まで無視していたが、休日前とあって興味本位で潜入。



以上のようなメンツであるが、俺と青森くん以外みんな友達同士。よくよく見るとスカウトした人は明らかに二人のうち一人が本命であることが分かる。

面白いもので彼らとは2時間近くいただけなのに随分和んでいた。入学したばかりの学校の隣席の人と仲良くなるそれと似ている。




名札を渡される。お客さんとの話が弾むようにとのこと。


          源氏名

          出身県
         
          趣味

以上を書かされる。

源氏名は、本名とは全く違ったものにし、新しい自分にしようと散々悩み、「夏よ(また)来い」で夏を強調した夏来(ナツキ)に決定する。

俺は...
         
         ナツキ

         山形県

       筋トレ、中国語


と書いた。ナツキという俺は山形県出身で筋トレ、中国語が趣味。なんだか本当に違う自分になったような気分.



「何か質問ありませんか?なかったら出発しまーす」


リクさんがそう言うと全員に緊張が走る。





いよいよ夜の舞台へ出発だ。






----つづく----